キングオブロマン、寝台車
- Takachi Nobuyuki
- 2016年12月26日
- 読了時間: 2分
旅の移動手段として最もロマンがあるのは何と言っても列車だ。なかでも寝台車といえばロマンの塊。キングオブロマンである。鉄の軋みに身を任せ、大きな窓から景色を眺め、目的地までの地形、距離を身体で感じる。
やがて雄大な大地に夕日が落ちて、夜が更けると、未だ見ぬ何処かに思いを巡らせながら寝台で浅い眠りにつく。
ありとあらゆる旅の醍醐味が、そこに凝縮されているのだ。

思えば人生初の一人旅も列車旅であった。あれは米国留学中の冬休み。大学のあったワシントン州からニューヨークまでアムトラックに揺られる片道3日の旅。友人はみな何故飛行機を使わないのかと口を揃えて尋ねたが、僕自身、明確な理由など持ち合わせていなかった。ただ言えるのは、あの経験が僕の旅の原点になったという事だ。
あれから約10年が経った2015年の末。僕はシラーズからテヘランに向う列車の中にいた。2週間のイラン旅行が終わりを告げようとしていた。
ところで、僕はいつもウイスキー入りのスキットルと洋書を持って旅に出る。中学か高校の国語の教科書(椎名誠のエッセイだったと思う)に、「寝台車にはウイスキーとお気に入りの文庫本」みたいなことが書かれていたからだ。 それを読んだ当時の自分は、異国の列車に揺られる自分を空想し、おぼろげな憧憬を抱きはしたものの、その姿はあまりに非現実的で、自分には縁の無い世界なのだと思い切なくなった。それが今、こうして旅をライフワークとしているのだから人生分からないものである。
ところが、今回は禁酒の国への旅という事でスキットルは持って来れなかった。そのうえ洋書(村上春樹 「像の消滅」”英語訳)は自宅のテーブルに置き忘れた。これでは格好がつかないで、今はこの話は忘れよう。
やがて日が沈みはじめた頃、ぐおんと音を立てて、列車はその巨体を始動させた。

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